さて、昨年末から引きずっている風邪ですが、さすがにこのままではまずいと病院へ行ってきました。今までの経験上、中途半端な時間に行くと、やたらと待たされる時間が長くなるので、今回は午前中の出来るだけ受付終了時刻に近い時間に訪問しました。風邪のようだと問診票に書いて受付に提出し、内科の待合席で待ちました。
すると、目論見通りに待ち時間は今までに比べて格段に短く、ものの10分か15分くらいで看護師さんに体温計を渡され、中待合室で待つように言われました。その時、ほぼ同時に体温計を渡された、私よりも若干年輩のおじさんがいたのですが、先に中待合室に入って行きました。私はMeMO PADを片手に、というか両手で将棋ゲームをしていたので、それを鞄にしまって移動したりするのに多少もたついていたのですが、中待合室に行ったらすぐに、先ほどのおじさんが診察室に呼ばれました。その時点では、まだ私は体温計を手に持っていた状態なので、中の椅子に腰掛けてから、ようやく体温計を脇に挟んで計測を始めました。
やれやれと思って一息ついていると、今しがた入ったばかりのおじさんが、もう扉を開けて出てきました。入ってから出てくるまでに正味一分もかかっていなかったように思います。外で待っているように言われたのかななどと思いながら見ていたら、後を追うように看護師がカルテを持って出てきて、「それじゃ◯◯さん、これを会計の方へ持って行って」とか言ってます。なんだ、随分早いんだな、大した事なかったのかななどと思っていたら、その看護師が、「それじゃ貧乏おじさん、体温計出して」と言ってきたので、「あれ、もうかよ?」と思いながらも計測結果をちら見したら、6度7分の表示がありました。
大体、私の場合は、夜になると熱が上がることが多いので、その体温は自分の状態を考えると妥当だろうとは思いました。まあ、そんなことはどうでもよくて、それから少し待っていると診察室へ呼ばれました。これが8度とか9度の熱があれば重病のようなフリも出来ますが、7度にも満たない微熱ですので、風邪と言うのも憚られる状態です。まあ、私自身治りかけだなと思ってはいたのですが、夜になるとまたぶり返すおそれがあるので病院に来たわけですから、特に精密検査を望んでいたわけでもありません。簡単に扁桃腺の腫れを診たり、聴診器当てて心音を聞くくらいだろうと思って行ったわけです。
中へ入ると挨拶もそこそこに、私が風邪のようだと書いて先に提出しておいた問診票を見ながら医者が尋ねます。
医者「いつくらいからですか?」
私「昨年の暮れからです」
医者「症状はどんな感じですか?」
私「熱と鼻水と咳と痰です」
医者「そうですか。随分と長引いているようなので、この際徹底的に治した方が良さそうですね」
私「はい、お願いします」
医者「じゃあ、薬を出しておきますので、それで様子を見てください」
私「はい」
私「・・・」
私「・・・」
私「・・・」
え?
終わり?
どうりでさっきのおじさんも早かったわけだ。服を脱ぐでもなく、口を開けて調べるでもなく、しかも私はハイネックのシャツに診察室に入ってもマスクを着けたままだったから、扁桃腺の腫れはおろか顔色さえもよく分からなかったと思う。それをほぼ問診だけで薬を出してしまうという観察眼は、まさにスーパードクターと呼ぶに相応しい名医に違いない。私はしばらく状況を飲み込めないままに診察室を出て、また待合室へと戻っていった。
頭の中ではひとつの言葉がリフレインしている。
「俺、今診察してもらったんだよね?」
さっきとは別の看護師が私のカルテを持って出てきた。
「それじゃ貧乏おじさん。これを会計の方へ提出してください」
どうやら診察は終了したらしい。
会計で呼ばれるまでに時間があるだろうと、またタブレットを取り出して眺めながら、今日のことをカミさんにどう報告しようかと考えていた。
「今日はものすごいスーパードクターに出会えたよ」
「いろんな検査を受けたんだけど、結局風邪だったみたいだ」
何の意味も重みもない上っ面だけの言葉が頭をよぎり、その虚無感に喘いでいた。
果たしてどんな薬を処方してくれるのか。残された希望は、ただその一点だった。
会計を待つ時間が長い。
「貧乏おじさん」
ようやく呼ばれた。
「1,050円になります」
わりと安かったな。そりゃそうか、特に診察されてないし。てか、そう考えると高いんじゃね?
まあいいか。どれ、どんな薬を処方してくれたのかな。伝票の後ろに隠れていた処方箋を確かめてみる。
総合感冒薬 10日分
やれやれ、俺はどれだけ風邪ひいてればいいんだ。
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